2026年シーズン考察
- polestarforeverlov
- 2025年9月27日
- 読了時間: 13分
ルイ・ヴィトン
2026年春夏シーズンのルイ・ヴィトンは、メンズとウィメンズそれぞれでブランドの革新性と伝統の融合が際立つ展開となっている。メンズでは新アーティスティック・ディレクターに就任したファレル・ウィリアムスの手掛けるコレクションが注目を集めた。2025年6月にパリで発表されたメンズSS26コレクションは「Paris to India(パリからインドへ)」をテーマに掲げ、メゾンの旅の精神を現代に再解釈した壮大なビジョンを打ち出している。古典的なダミエ柄やモノグラムといったアイコニックな伝統とコンテンポラリーなデザインが邂逅するモダンなワードローブへと昇華され、東西をまたぐ文化的旅路を服飾で体現した。ウィリアムスは人々を結び付ける普遍的なユナイトの理念を「LVERS(エルヴィバーズ)」というコンセプトで示し、ショーではスタジオ・ムンバイと協働した壮麗な舞台美術を通じて、フランスとインドの美意識を交差させてみせた。その結果、サルトリアルの技巧を凝縮したテーラードアイテムから、異文化モチーフを散りばめたストリート感覚のルックまで、伝統と革新の調和が隅々にまで息づくコレクションとなっている。一方、ウィメンズではアーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエールが引き続き舵を取り、未来志向のクリエイションとメゾンのヘリテージを融合させた表現に磨きをかけている。2025年9月末にパリで開催される予定のウィメンズSS26ショーでも、革新的な素材使いや構築的シルエットによって伝統に新風を吹き込むことが期待される。ジェスキエールは過去のアーカイブや旅行鞄に端を発する旅のエスプリを尊重しつつ、先鋭的なデザイン美学で再構築する手腕に定評があり、卓越したクラフツマンシップと大胆な実験精神を両立させながらルイ・ヴィトンの新章を描き出している。
コーチ
ニューヨーク発のコーチは、クリエイティブ・ディレクターのスチュアート・ヴィヴァースが長年培ってきた若々しく遊び心ある路線に磨きをかけつつ、2026年春夏では一段と大人の洗練を意識したコレクションを展開した。2025年9月のニューヨーク・ファッションウィークで披露されたSS26ショーは、ヴィヴァースが愛する「ニューヨークのグリット(粗野さ)とレジリエンス」にインスピレーションを得ており、若さの殻を脱ぎ捨てた後に宿る成熟したスタイルが表現されている。ランウェイには、ゆったりとしたバギーパンツにふくらはぎ丈のプレイド柄スカート、コンパクトなデニムジャケットといったレイヤードが登場し、グラフィックなプリントドレスやダメージ加工のジーンズと対比させるようにホワイトレザーのバイカーベストが組み合わされた。さらにゴールデンロッド(山吹色)のスエード素材を随所に差し込むことで、グランジなムードに上質な艶を添えている。アクセサリーにも焦点が当てられ、全ルックにコインパースネックレスが取り入れられた点が新鮮だ。長いストラップで首から下げるミニ財布のスタイルは今季のトレンドとなりつつあり、従来のクロスボディバッグに代わる提案としてショーを象徴した。クラッチやミニダッフルを脇に抱え、ハンドバッグも通勤に丁度良いサイズ感にまとめることで、現代の若い世代が初めて自分のワードローブに投資するタイミングにふさわしい実用性と高揚感を両立している。随所には遊び心も健在で、小さな洋書を象ったモチーフがイヤリングやバッグチャームとしてあしらわれるなど、アクセサリーをさらに飾るスタイルでウィットを効かせた。ヴィヴァースの戦略は、Z世代に支持されてきた「母のバッグではない」大胆な路線を一歩成熟させ、今まさに大人になりゆく次世代の顧客に向けて洗練と親しみやすさを兼ね備えたブランド像を提示することにある。
ポール・スミス
英国のポール・スミスは、その豊かなテーラリングの遺産に旅先での発見から得たインスピレーションを織り交ぜ、2026年春夏においてノスタルジックかつエキゾチックなコレクションを披露した。今回のメンズSS26コレクションはブランド初となるミラノでの発表となり、デザイナー本人の長年にわたる旅の記憶をテーマに据えている。色彩面では、ライムグリーンやフューシャピンク、コーラルオレンジといった鮮烈なトーンを日差しに褪せたようなアースカラーと組み合わせ、真夏の熱気と郷愁が同時に漂うパレットを構築した。これらの色調は手作業の染色から着想を得た深みを持ち、特にカイロの街角写真集に触発されたサンブリーチされた土色のニュアンスが印象的だ。テキスタイルでは、デザイナー自ら撮影した写真の断片をコラージュし、大胆なプリントに仕立ててシャツやアウターに落とし込んでおり、ブランド黎明期からの得意技法である写真コラージュ柄がアップデートされている。例えば、手描き風のポストカードを思わせるグラフィックや、スエードで表現した花々のアプリケを配したブルゾンなど、旅先の記憶を可視化するようなディテールが随所に施された。シルエットは1950年代のテーラリングを想起させ、クロップ丈のテーラードジャケットにハイウエストのトラウザーを合わせることで古風なエレガンスを漂わせつつ、前プリーツを廃したフラットフロントのパンツによって現代的な軽快さを表現している。前シーズンまで特徴的だったツータックのパンツに代わり、すっきりとしたノープリーツを採用したことで、暑い気候でも快適なリラックス感を演出したのもポイントだ。アクセサリー類からも旅情が薫り、クラシックなホテルのルームキーを想起させるキーホルダー型チャームや、各地で集めたお守りのようなメタルチャームがベルトや帽子、ジャケットにあしらわれている。鞄は週末旅行にぴったりのボストンバッグや市場での買い物帰りを思わせるメッシュのネットバッグなど多彩で、レーシングドライバーのシューズから着想を得たレザー×メッシュの軽量シューズが足元を飾り、世界を巡る旅人を彷彿とさせるスタイルを完成させた。長年培った完璧なサヴィル・ロウ仕込みのスーツ技術に遊び心ある異国情緒を融合した今季のポール・スミスは、往年の顧客に安心感を与えると同時に、新世代のファッショニスタに向けてもブランドの物語性とクラフトマンシップで強い印象を残すコレクションとなっている。
アルマーニ
ミラノを代表するジョルジオ・アルマーニのブランドでは、追悼と継承の思いが込められた2026年春夏シーズンとなった。2025年9月上旬、91歳でこの世を去った巨匠ジョルジオ・アルマーニにとって、生前に手掛けた最後のコレクションとなったエンポリオ・アルマーニのSS26ショーは、その遺志を体現するかのような「ビジネス・アズ・ユージュアル」(平常運転)の内容で観客を魅了した。アルマーニ自身が夏前に構想し承認していたというショー会場は純白のバルダキン(天蓋)が天井から垂れ下がり、無限に続く白い階段が天へと伸びる幻想的なセットで、逝きしデザイナーの存在を象徴的に表現していた。肝心のコレクションは、その85体ものルック全体を通じ、何十年も変わることのなかったアルマーニ美学を改めて凝縮して見せるものだった。ノマディックかつジャポニズム的な緩やかなシルエット、パジャマのようにリラックスしたテーラリング、そしてフィナーレを飾るスパンコール煌めくイブニングの装い――それらはすべて往年のアルマーニを象徴する要素であり、最終章となるこのエンポリオのコレクションはまさに集大成と言える仕上がりである。流行に左右されない一貫したスタイルは、「変化の激しい時代にあってもアルマーニだけはブレない」という安心感を改めて示し、観客に深い感動と敬意を抱かせた。ブランド戦略的にも、本コレクションは創業者の遺した普遍的エレガンスを余すところなく表現することで、その遺産を次世代へと橋渡しする役割を果たしている。アルマーニ亡き後もなお、メゾンが築いてきたサルトリアルな洗練と簡素なラグジュアリーの精神は揺るぎなく受け継がれ、今後のクリエイションにも不変の羅針盤を与え続けるだろう。
シャネル
パリのシャネルは2025年にクリエイティブ・ディレクターのヴィルジニー・ヴィアールが突然退任して以来、後任不在のままクリエイションが続けられているが、2026年春夏シーズンのコレクションもメゾンの遺伝子を守り抜きながら新世代へのアプローチを感じさせる内容となった。2024年10月にグラン・パレで開催された2025年春夏プレタポルテ・ショーでは、ヴィアール退任後にメゾンのファッション・クリエイション・スタジオチームが手掛けたコレクションが披露され、往年のツイードスーツなど伝統的コードから幕を開けつつも、徐々に大胆な肌見せやヤングカルチャーのエッセンスを織り交ぜた展開で話題を呼んだ。きっちりとボタンを留めたクラシカルなツイードの装いに始まり、プリーツで切り替えたミニスカートやシフォンのクロップドブラウス、腹部を大胆に開けたオープンジャケットなどが現れ、ウエストにはロゴ入りのベリーチェーンが煌めくとともに、ベストやボンバージャケットに超ショートパンツを合わせる遊びも登場した。足元にはサドルシューズを彷彿とさせる白黒コンビの厚底ローファーが配され、往年のシャネルを知る者にも新鮮な若々しさを印象付けた。加えて、ショー中盤にはボヘミアン調の緩やかなルックが連なり、シアーなロングドレスや透け感のあるセットアップが登場した。キャンディカラーのピンクやアクアブルー、レモンイエローといったパステル調のシルクが軽やかに揺れ、フロア丈のパンツとシャツドレスには可憐な花柄プリントが施されている。クロシェ編みのセットアップに黒いリボンを結び、乗馬ブーツと合わせるルックも見られ、若い世代に人気の「ハズしの美学」をシャネル流に表現した点も新鮮だ。フィナーレでは女優のライリー・キーオが黒のシャネルルックで巨大な鳥籠に乗ったブランコから歌声を披露し、伝統あるメゾンに吹き込まれた新風を象徴的に演出した。こうしたジェネレーションZ的感性とクラシックなエレガンスの融合は、次代の「シャネル・ガール」を意識した方向性として注目されている。クリエイティブ・ディレクター不在という過渡期にあっても、シャネルのアトリエが培ってきた職人技とブランドコードは健在であり、それらを下地に現代的な軽やかさを加味したコレクションは、メゾンのレガシーを守りつつ新鮮さを打ち出す巧みなバランスを示している。
エルメス
エルメスの2026年春夏レディースコレクションは、クリエイティブ・ディレクターのナデージュ・ヴァニエ=シブルスキーが一貫して掲げるタイムレスな職人技に、軽やかなセンシュアリティを織り交ぜた内容となった。2025年9月のパリ・ファッションウィークで発表された前シーズン(2025年春夏)のテーマ「Inside the Workshop(アトリエの中へ)」をさらに発展させ、メゾンのアトリエで培われる卓越したレザークラフトを日常のワードローブに落とし込むという視点が感じられる。実際、2025年春夏コレクションではキルティング仕立てのレザーブルゾンやベルト付きトレンチコート、プリーツ入りのワイドパンツ、ロールアップ袖のユーティリティシャツなど、馬具商にルーツを持つエルメスらしい上質なレザーと実用的ディテールが多数登場したが、それら重厚なアイテムにシアーなトップスやパンツ、あるいはニット製のブラレットとブリーフをレイヤードして軽やかさと透明感を演出していた。シルクメッシュのマキシスカートにジッパーのスリットを配し、ロゴバックルの細身ベルトをあえて下着の上から締めるような大胆なルックも現れ、アクティブウェアとエレガンスを融合したスポーティ・エレガンスの新境地を示している。カラーパレットは水彩画のように柔らかな焦点を持つニュアンスでまとめられ、ブロンズグリーンやエボニー(黒檀)ブラウン、キャメル、ナツメグなど穏やかなアースカラーが基調となった。そこにアクセントとして、デニムにはアルバスターホワイトやブーゲンビリア(ツツジ)の花を想起させるローズピンクといった明暗の効いたトーンも差し込まれ、夏の光と影を表現している。全体としては、ワークウェアから着想を得た機能美と、リラックスしたムードの中に潜む官能性とが調和し、現代の働く女性に向けた洗練されたリアルクローズに仕上がった。ヴァニエ=シブルスキーの戦略は、一過性のトレンドではなくエルメスの永続的価値に軸足を置きながらも、現代のライフスタイル(リモートワークやスポーツミックスの流行など)を巧みに取り入れることで、クラシックとモダンを両立させる点にある。メゾンの伝統に培われた品質と知性に、新たな軽快さと遊び心が吹き込まれた2026年春夏コレクションは、静かながら確固たる存在感でファッション界におけるエルメスの位置付けを再確認させた。
プラダ
ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズの共同体制によるプラダは、2026年春夏コレクションで一見カオティックなスタイルの中に潜む統一感という挑戦的なテーマに取り組んだ。2025年9月のミラノで発表されたこのショーの会場は鮮烈なオレンジ色の床が敷かれ、まるで子供がクローゼットのあらゆる服を引っ張り出して自由気ままに着飾ったかのようなプレイフルなドレスアップが展開された。プラダとシモンズはバックヤードで「自由とファッション」について語り合い、過去の様式を引用しながらもそれを遺物とせず現代的な自由へと昇華させることを目指したという。例えばヒッピーのように花柄ドレスにミリタリージャケットを合わせるといった、かつての自由奔放な着こなしへのオマージュを示しつつ、制服のような洗練さとランジェリー風の即興的レイヤードが同居する矛盾の美が表現されている。実際のルックでも、純化された制服的セットアップから端を発し、パッチワーク風に継ぎ接ぎした即興的なブラトップとスカートへと展開、さらに端正なミッドセンチュリードレスへと推移し、そこにボウリングシャツとダンススカートの組み合わせや、あえて子供服を大人サイズに引き延ばしたようなベビードールドレスに武骨なフィールドジャケットを羽織るスタイリングが投入されるなど、一貫したルールなき即興のレイヤリングが貫かれた。知的なカーディガンに艶やかなオペラグローブとレースのスリップスカートを合わせたり、厚手のタイツを彷彿とさせるホーズ風のソックスをのぞかせたりと、高貴さとストリート感覚のミックスも冴えわたる。ミウッチャ自身、「これは今自分たちが心から魅かれるピースを純粋に組み合わせて構成したコレクション」だと語っており、先入観を取り払って直感に従ったクリエイションこそが解放的であるという信念が感じられる。さらに「このコレクションは不確実な未来に対応するためのもので、服がシフトし変化し適応できるようにデザインした。異なる要素の組み合わせにこそ女性が選択や自由、主体性を持てる」という趣旨の言葉も示されており、混沌とする世界情勢にファッションがいかに応答しうるかという哲学的メッセージを内包している。複雑に見えながらも各ルックには計算された実用性と一貫性が宿り、その「首尾一貫した混沌」という矛盾した美学は、観る者に混迷の時代を映し出す鏡のような共感を呼び起こした。プラダらしい知性と実験精神、そして研ぎ澄まされたクラフトマンシップが融合したこのコレクションは、乱雑さの中に新たな秩序を見出し、ラグジュアリーファッションの可能性を拡張する意欲的な試みと評価されている。



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